(日本経済新聞 2019.12.14 )
「経営陣があぐらをかいた結果。(宅配便の生みの親の)小倉昌男は今頃泣いているでしょうね」。
故・小倉昌男が社員に説いた「サービスが先、利益は後」という経営哲学を思い浮かべ、西日本で働くヤマト運輸の50台の男性ドライバーはこう嘆く。
消費者に荷物を届けるドライバーの間で、荷主の「ヤマト離れ」が実感として広がっている。先行きを悲観して、地元のよく知る同僚はこの1年で3人が辞め同業他社に移った。
大和はドライバーの人手不足を理由に2017年10月に27年ぶりに基本運賃を引き上げ、荷物井の取扱数を制限する総量規制を始めた。それから1年半の今春、取扱数について再拡大にカジを切ったが、肝心の荷物が戻って来ない。値上げを原資に配送体制を整備すれば、荷主は戻ってきてくれるーー。描いていた構想はあてが外れている。
物流コンサルタントのイー・ロジット社長の角井は「荷主に今も強硬な値上げの残像がある。一度離れたヤマトに戻ることは無い」とみる。取扱数低迷が響き、親会社のヤマトホールディングスの19年4~9月期連結決算は最終赤字に転落した。
この間。ライバル着々と力を蓄える。業界2位の佐川急便は18年に個人客向けの配送の9割を業務委託し、正社員のドライバーは法人客向けに集中させる取り組みを拡充した。ドライバーは顧客企業の集荷や配達の際に困りごとを聴きとる。その後、要望に合わせた配送を提案し契約が成立すればドライバーの評価に繋げる仕組みだ。
佐川も17年11月に値上げをしたが、細かな要望に対応する取り組みの結果、18年度の宅配シェアは17年度比0.7%減の29.3%とヤマトとの差を0.6ポイント縮めた。採算性向上で親会社のSGHDの株式時価総額も19年5月にヤマトHDを上回った。
ヤマトも逆境に手をこまねいているわけではない。9月にはスマートフォンで送り状の作成から支払いまで完結できるサービスを始めたほか、コンビニなどに荷物を持ちこむと料金を割引く取り組みも始めた。
ヤマトを支持する消費者はなお多い。ネット通販をよく使う30代の都内の女性会社員は「再配達手続きもLINEでできる。できるだけヤマトを選びたい」と話す。
11月に操業100周年を迎えたヤマト。原点回帰でサービスを磨き続けるしかない。
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